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鷹勇・坂本杜氏特別インタビュー

山廃をもう一度つくったきっかけ



日本酒を造る名杜氏みなさんから、ぼくの山廃を飲みたいという要望があった。それが一つ。
それから、もう今になってね、山廃を造る人がいないでしょう、若いおやっさん(注1)は、造る方法を知らないんです。
だから、今ごろみんなに、うちの連中に教えといてやりたいというのがあったです。昔の山廃はこういうもんだということを、みんなにやっとけば、また後で、わしがおらんでも造るかなと。
今、こういう時代ですからね、やっぱりどうしてもこう、新しいもんではなくして、昔の造りを、という人がだいぶおるようになりましてね。そういうことからひとつ山廃を造ってみようという・・・
三?四年前から考えておったですよ。
なかなか設備の都合がありましてね、ある程度、山廃を造るということは昔のような造りでは今はできないです。
ということは、手をかけないかんでしょう、みんなね、暖気樽を入れて、すぐ氷を入れて冷ますようなやり方をしますとね、もう、みんなついてこれんようになる。もう一日中それにかかるようになる。それではもう、とてもやれんんからね、部屋を別にして冷房してもらって、社長に、それから考えんと。
部屋を5度なら5度にしよって、暖気樽を入れて上げると、また温度が下ってくる。そういう一つの理想に部屋をもってきとかんと、今では出来ない。
昔のように造って、手間をかけてねえ、やる時代ではいけんということ、そういう気がするから、全部整えてから山廃をやる。
だから昔の山廃のイメージが少し違うということ。さっき言ったように昔の山廃と今の山廃では、今の山廃はきれいだと言ったでしょう。昔はどうしても回りも汚い、そうして温度を上げて、低くならな氷を入れるでしょう。そうすると、どうしても汚くなる。
それと昔は白(ハク・注2)が黒かったから、少々乱暴しても良かったんです。乱暴というと語弊があるけど、ちょっと言葉が違うと思うけど、そうした位が良かったけど、今そんなことをすると、50%まで白を磨いてるとねえ、もう、どろんどろんに溶けてしまう。モト屋さんにも言ってるんですよ。
櫂入れはさせにゃいけんし、あまり櫂を入れると溶けるし、ということになるわけで・・・
櫂で溶かすな麹で溶かせ、と言ったですけどね、それが本当は理想ですよ。
昔の白の黒い(注3)もんに麹菌をつけてね、完全に入っとらへんわね、本当は、昔は。それだから僕らは山廃で、みんな突いたんですけどねえ。ものすごい突きよったです。
最初に荒櫂を入れる時にも何時間です。なかなかならんから。夜も寝る前にまた突いて、三人か四人で突いたです。それで晩の九時、十二時、三時に起きて突かんならん。
(タンク一本につき)百本くらい突かんならんでしょう。それが(タンク)6本か7本ありますとねえ、三十分以上、小一時間かかるですよ。
早く帰るとねえ、(杜氏が)「坂本君、ゆうべは早かったねえ」(笑)
それだけ、時間が長かった。それで一年でもう酒屋やめたいって、もう親父に手紙出して、もうやめるって(笑)こんな商売じゃなあても食われるって。
途中で帰るって言ったら、途中で帰ることはいけんて。うちの親父も杜氏やっとったです。平田(島根県)の『世界の花』という酒屋で。そこは通勤もあるような蔵ですけんね。うちからなんぼ、十五分、車で十五分くらいですけん。一番近い酒屋さんで。・・・いやだと思ったのが、もう五十何年(笑)


酒造りを面白いと思ったのは



そら、代司(注4)の時もやることはやっとったけんど、実際に酒造りが面白くなったのは、杜氏になってからかなあ。
まあ、わしが杜氏になるのが早かったからね。二十八で杜氏になったから。
代司の時もやることはやったですけど、杜氏の資格試験を受けたのは二十二だったですけん。
出雲杜氏組合の中にあったんです。今は国家試験があるけどね。
出雲杜氏の中で、こう、先生を呼んでですね、学科と口頭試問と実地とあって、それを全部通らんことには杜氏になれんかったんですよ。
それを何点以上とってね、三百点満点だと、せめて二百五十点位とらんとなれんから、だけん受けたもんの半分以上落ちよったですよ。
十人受けますとね、三人か四人位受かるという格好。なかなか難しかったですよ。
僕が二十二の時に受けましたらね、おい、お前もう杜氏やる気かよ、言うて、みんな年がようけの人ばっかりでしょう、三十なんぼの。
僕は勉強にきました、言うたらね、それならええって(笑)どういう試験か勉強に来ましたって言うた。


山廃の特徴について



昔の山廃のイメージだったらね、あんた方、飲まんと思う。飲めんと思う。あまり酒が汚くて。
やっぱり、もうこれほど、この吟醸でも相当きれいな酒飲むような時代でしょう。わしゃ、それにマッチした山廃でなきゃいかんという気持は持っちょって。だからもう最初から50%(精白)でやったですよ。
50%で山廃やるか、と皆さん言われたんですよ。だけど、50%で山廃やってみて思ったけど、最初から50%へもってきたのは、ある程度皆さんに引きつけるものがある、ということが大事でしょう。だから白の高いもんからもってきたんですよ。
だからその、昔のイメージと違ってることは事実。
だけど、山廃にはねえ、押しというものが強いでしょう。一つ、ものすごい、こう力強いというのか、これは出せるというのは、もう絶対に思っちょったから、それでわしゃ、もう成功だと思っちょる。
やっぱりこう、山廃は少々ここに置いといてもなんとも崩れんでしょう。やはりそこが一番大事だと思っちょるですよ。
普通もんですとね、崩れるんですよ。山廃ばっかりは本当、絶対崩れん。それで山廃の特徴があると思う。
だけどね、昔のようなの、今でもあるですよ。香り立ちにでる。これが山廃です、いうのがあって、もうあれは太すぎるだわ、わしに言わせるとね。そら、60%なら少しそうなるかもしらんと思うけど。


酵母について



やっぱりね、酵母の習性というかね、やっぱり七号の方が食い切りがいいんですよ。糖分を食うことは七号はいいんですよ。
あなたも七号がいいって言われるけど、それは現在は九号の時代でしょう。それで九号もやってみたんです。
だから、あなたのように七号がいい、という人もおられるが、九号がいいと言う人もあるんですよ。それで、今年は七号だけにしてしまおうか、という感じがして、社長も七号だけにしてしまおうか、と言われるんで、それでもええですよ、と言っていたんですよ。けど、てんてんと聞いてみると九号も悪くないという人もあるもんだから、今年九号も一本造ったんですけどね。
本当に素晴らしい醪の経過だった。醪の泡なんかねえ、こう、きれいな泡だった。

注1: おやっさんとは、杜氏のこと。蔵内では尊敬と親しみを込めて杜氏のことを「おやっさん」とか「おやじ」などと言います。
注2: 白(ハク)とは精米歩合のこと。日本酒は玄米のままでは仕込まず、精米して造ります。
注3: 白の黒い、とは精米歩合が低いこと。昔では飯米と同じていどの精米歩合でしたが、現在では70%以上磨くのが当たり前で、大吟醸になると23%などというものまであります。この数字は、玄米を100%とした場合の、実際に使うお米の大きさを表します。ですから、精米歩合70%ならば、30%を磨いて糠にした、ということです。糠は飼料や米菓の材料などとして使われます。
注4: 代司とは、麹造りの責任者のことをいいます。

このインタビューは平成10年1月21日、鷹勇で当店のオリジナルを初めて造っていただいたので、そのお酒を試飲するために蔵へお邪魔させていただいた際に行いました。
本当は出雲弁で、専門用語が頻出しますが、読む方は、そのまま載せたのではおそらく半分も理解できないだろうと思い、坂本杜氏の話のリズムを壊さない程度で、なるべく分かりやすくアレンジしてあります。

この年は、しばらく中止していた山廃造りを復活させ、それだけでも忙しかったのに、わざわざ時間を割いてインタビューさせていただきました。
その時、当店のオリジナルのお酒は、本当はもう出来ていたはずだったのですが、坂本杜氏に聞くと、「一度造ったけんど、気に入らんけん、もう一度造り直してちょる。だけん、まだ出来とらへんわ」とのことでした。

え?っ!! 山廃だけでも大変なのに、わざわざ造り直してくれるなんて!
感謝、感激あめあられ! 思わず、深々と頭を下げてしまいました。
それから待つこと約3カ月、やっと届いたお酒を飲んだ私は・・・
すぐに蔵に電話して、坂本杜氏にありったけの感謝の言葉を贈らせていただきました。
そのお酒が「鷹勇・純米吟醸山田錦」です。


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