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酒蔵訪問

北から南まで、当店で訪問させていただいた酒蔵紀行です。

神亀酒造(埼玉県)

神亀酒造の純米酒紹介

神亀さんの「ひこ孫」は3年古酒です。ですので、けっこう色づいています。山吹色、というほどではありませんが、けっこう色がついてます。
しかし、それこそがきっちりと熟成された証拠。炭なんぞでいらっていない証拠です。

そして、いつのまにか、お米が山田錦になってました。(値段は変わらず)さらに!! 精米歩合も5%上がっていました。今まで、私は五百万石の60%だと聞かされていたのですが、いつのまにか山田錦の55%精白になってました。

神亀さんって、こういうことをあまり話さないのです。(神亀の専務曰く「お前が何も聞かないから、喋らないんだ」って。おいおい、そういう問題かよ)
何も言わずに、ひそかにグレードを上げている神亀さん。う~ん、しぶいぜ!!
で、味は、これまた驚くほど、奇麗になって旨味、膨らみともに申し分ない。でも、やはり、これは燗向きのお酒でしょう。もちろん、冷やで飲んでもいっこうに構わないのですが、お燗を飲むと、このお酒を冷やで飲むのがバカらしく思えてきます。

以前の、もっとごっつい神亀が好きだった人は、今の神亀は奇麗になりすぎている、という人もいらっしゃいますが、やはり、この味は神亀さんでしか出しえない味わいだと思います。

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神亀酒造の酒蔵訪問1

神亀さんに関しては、私なんぞがここで改めてご紹介するまでもないでしょうが、私にとって神亀の専務はお酒の先生の一人なので、個人的なことですが、私と神亀さんの思い出をお話しましょう。

惰性で酒屋をやっていた私にとって、吟醸酒との出会いは衝撃的でした。しかし、自分がおいしいと思えるお酒を探していても、なかなか基準が分からない。なんか大きな森の中をさまよっているような時に出会ったのが神亀さんでした。平成2年頃だったでしょうか。神亀さんが『夏子の酒』で紹介された頃かもしれません。

ある方の紹介で冬、神亀さんに行くと、あの専務が蔵の片隅に置いてある、ほこりを被ったお酒(「純米大吟醸」というラベルが貼ってある)を、ぽんぽんと開けて飲ませてくれたのはいいのですが、ゴッつい酸と老ね香がすごくて、正直、あまりおいしいとは思いませんでした。それまでは、香り高い吟醸酒ばかりを探していたので、「なんだこれ? これ、おいしいの?」と思いました。(専務、ごめん)
それに蔵も薮の中にあるし、普通、白壁のきれいな所にあるんじゃないの? 酒蔵って、と思ってました。(専務、本当にごめん)

そんな時、かの専務は、「うちの〔純米)大吟醸はお燗にするとゴルゴンゾラチーズと良く合う」なんぞと言い出したんです。

はあ? ゴルゴンゾラチーズ? お燗? 大吟醸をお燗だあ!? 何考えてるんだ、この人は。(そういや、この時には竹鶴の石川杜氏にも会っているんですよね、神亀さんで。神亀の蔵人さんでしたけど、この時は)
と、ストーブの上に乗せてある薬罐の中に、かの純米大吟醸を徳利に入れてお燗しだしたのです。

「う~ん、この温度なら1分くらいかな・・・」などと、時計を見ながら、さっと徳利を持ち上げて
「うん、いいだろ。どうぞ」と、そのお燗された純米大吟醸を盃に注いでくれました。
は~、まあ連れてきてくれた人の手前、しょうがないけど飲むか・・・と一口。
それは物凄い衝撃でした。えっ、何これ? さっきまでの老ね香もないし、冷やのままだと飲みにくかった酸がとってもまろやかになっている。これなら下手なワインなんざ足下にも及ばない。これは凄い!!
んっ、もしかしたら、このオジさん(専務のこと)とっても凄い人なんじゃなかろうか・・・

それから、専務に嫌がられながらも蔵に押しかけては色々とお酒のことを教えてもらいました。
そして、翌年には神亀さんで『ここに美酒あり・後編』を出版された箕浦淳一氏に出会い、さらには上原先生に出会い、私は純米酒にひた走るようになってしまったわけです。
こうして、不幸な酒屋の一丁上がりです。神亀~上原ラインでお酒の基準が出来上がってしまった私は、もう香り高いアル添の吟醸酒には戻れませんでした。

こんな私が探してくるお酒は、ほとんど無名の銘柄ばっかり。お店に並べておいても、誰も見向きもしませんでした。
そんな私の大恩人です、神亀さんは。

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神亀酒造の酒蔵訪問2

地元埼玉の誇る銘酒神亀。全国で初めて全量純米を達成した、その勇気と偉業に追随しようとしている酒蔵が、やっと全国でも出てこようとしています。

そして、実際、神亀さんの援助を受けて、全量純米に切り替わった酒蔵もあります。

しかし、神亀の味わいは、けっしてきれいな、万人に受け入れられやすい味わいではありません。特にレギュラーの「神亀辛口純米」は、その独特の酸と味幅から、評価は大きく分かれると思います。

ただ、これだけが神亀ではないのが、ここの懐の深さでしょう。発泡性のにごり酒から甘口の純米酒まで、様々なラインナップのお酒があります。

そのどれもが、個性あふれる味わいでありながらも、通底している神亀ならではの味わい。造り手としては、お燗をして料理と一緒に味わうのを前提にされていますし、確かにお酒だけを飲むより、料理を食べながら飲みたくなるような味わいです。

またここは、若い蔵人さんが多いのも特徴です。専務は「昔は大手の酒蔵が蔵人や杜氏を育ててくれたけど、今じゃうちみたいなところが育てなきゃなんないから」とおっしゃっています。

それも、機械がすればいい仕事は機械を導入するけれど、人間の手の感触が必要な箇所は、機械を入れずに、きちんと経験を積めるような仕組みになっているところがすごい。

お酒を造る工程の麹米を造る箇所では、昔ながらの、蓋麹と言われる小さな道具を使い、手間と時間のかかる製法で全ての麹米を造らせる。この経験が若い蔵人を育てるのでしょう。

ここの卒業生の一人に、「竹鶴」の石川杜氏がいらっしゃいますが、その詳しい話は、竹鶴でお話いたしましょう。

それと、もう一つ。神亀さんが力を入れてらっしゃるのは、農家さんの援助ではないでしょうか。千葉県の成田や鳥取。または徳島県の篤農家さんを援助されて、極上の酒米(山田錦や五百万石など)を栽培してもらい、また神亀さんだけでなく、志を同じくする酒蔵さんにも提供されています。『醸は農なり』という言葉がありますが、まさにそれ。人の口に入るものですし、昔の杜氏や蔵人は、酒造り以外の時期はお百姓さんとしてお米などの農作物を作ってらしたのです。

そんな神亀さんですが、「天は二物を与えず」という言葉通り、酒造りに関しては申し分無いのですが・・・事務に関しては、ちょっと・・・

当店からは車で30分程度なので、欲しいお酒があると電話してから蔵に出向くのですが、電話に出るのが専務だと、後でちょっと困ったことになりがちです。

専務がそのまま蔵にいらっしゃる場合は問題無いのですが、なにしろ忙しい方なので出かけられることが多いのです。電話を受けた後で専務が出かけられた場合、この注文の引き継ぎを期待してはいけません。

蔵に入って「こんちわ~」と言うと、事務員のMさんが、「あら~? 池田屋さ~ん今日はな~に~?」と言われます。

「えっ? さっき専務に注文しておいたんですけど・・・」

と、事務員Mさんと、専務のお嬢さんが口を揃えて、

「あら~っ! 専務は駄目よ~!」ということで、最初から注文のし直しとなります。

そんなお茶目な神亀さんですが、ここ数年の味の進化、深化には目をみはるものがあります。

神亀らしい、グッとくる旨味はそのままでも、年々、味がきれいになってきているようです。中には、以前の神亀のような垢抜けない香味のものもありますが(決して貶めた表現のつもりではありません。神亀ならではの個性を表現したいのです)、全体的には非常に透明感のあるきれいな味わいになってきているようです。

先日、専務と一緒に飲んだ時に、ちらっと専務がおっしゃった言葉が印象的でした。

「やっと最近、若い衆が、俺がやりたいことを理解してくれるようになったんだよ。10年近くかかったよ」

さて、これからの神亀がどのような方向に向かっていくのか。それは私にも分かりません。おそらくそれを全て把握しているのは、お茶目な専務だけかもしれません。

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鷹勇 大谷酒造(鳥取県)

鷹勇 大谷酒造の純米酒紹介

大谷酒造の純米酒鳥取県の中部、浦安町に位置する蔵です。鳥取市から山陰本線で約一時間ほど揺られ、浦安駅で下車。歩いて15分ほどで蔵に到着。この蔵は鳥取県では最も大きい蔵ですが、大きさではなく、その品質の高さで有名です。

まだ全国的には知名度は高くないかもしれませんが、品質に反比例する価格も驚異です。 この蔵で製造の先頭に立つのが坂本杜氏。若い時から上原先生の薫陶を受けてこの蔵で修業を積み、今や押しも押されもしない名杜氏。実際、この蔵の中に入ると、開放タンクの数に圧倒されます。そして、それが全て純米吟醸だ、というのでさらにびっくり。これだけの数の純米吟醸を、少しずつ工夫をしながら、あの圧倒的な存在感を持った酒に仕上げてゆく腕は、やはり坂本杜氏率いる出雲の蔵人達ならではでしょう。

毎年、出雲から坂本杜氏と共に数名の蔵人が赴任します。誰もが杜氏として一本立ちできるだけの腕前を持ちながらも、坂本杜氏を慕いこの蔵にやってきます。こんなに純米吟醸ばかりあって、大変ではないかと私なぞは思うのですが、少しずつ工夫できるから楽しい、とこともなげにおっしゃる。 毎年、新しい米、新しい造りに果敢にチャレンジされ、これまた見事な美酒を作り上げてしまう。 倉吉管内、鳥取県、出雲杜氏組合、中国地区、または全国と、出品すればことごとく入賞されるだけの腕前は持ちながら、あくまでも基本は純米吟醸、と言われる坂本杜氏。いつまでもいつまでも、おいしいお酒を造り続けて下さい。

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鷹勇 大谷酒造の酒蔵紹介

日本酒を造る名杜氏この蔵は、なんといっても、私の敬愛する坂本杜氏(現在は顧問)を抜きにして語ることは出来ないでしょう。

私としては、神亀さんの後に訪問したのが、この鷹勇、ということもあり、また神亀さんの時とは違う、衝撃的な体験をここでしてしまったために、ここまで純米酒にのめり込むことになってしまったのです。

上原先生をして、「現在、あれほどの技量の杜氏はそうはおらん」とまで言わせしめる腕前で、米の悪い年でもちゃんと「鷹勇」の酒を造ってしまいます。鷹勇は、よく「男酒」と言われます。まさに正鵠を得ている言葉でしょう。搾ったばかりの時は、熟成の目処が立たないほど堅く、渋いです。生原酒でさえ、常温でほったらかしておいても全く崩れてきません。

初めて訪れた鷹勇で、この「男酒」の凄さを目の当たりにしてしまったのです。

あれは平成3年の冬だったでしょうか。まずは事務所に通されて型通りの挨拶を、社長と杜氏と交わし、多少の世間話をした後で、その年に搾ったばかりの新酒を味見させていただいたのですが・・・

どれを飲んでも、何の味も香りも無い。まるで焼酎。え? 杜氏さん、もしかして俺を試すために何か違うものでも持って来たのかな? と思ってしまいました。

が、初めての蔵で大杜氏に対してそんなことも言えずに、蔵の中を案内してもらいました。一通り蔵の中を案内され、中くらいの開放タンクが整然と並んでいるのを目にしていると、坂本杜氏が「これは全部、純米のタンクですわ。一つ一つ造りを変えられるから楽しいです」ということをおっしゃる。

その時は、ほ~そういうものかな~、と思っていたのですが、後で他の蔵元さんに聞いてみたら、とんでもない! うちじゃ、杜氏に純米酒2~3本造ってくれって頼むのがせいぜいですよ、普通、そんなに多くの純米酒なんか造りませんし、杜氏や蔵人だって、しんどいから造りたがりませんよ、よほどの腕なんでしょうな、その杜氏さんは、と言われ、改めて坂本杜氏の凄さを実感したこともありました。

で、また事務室に戻ってしばらく造りの話やらなにやらをして時間が経ち、じゃあ今日はこれでお暇します、でも、もう一度さきほどのお酒、試飲させて下さい。

ということで、くだんの、何も味も香りも無い、焼酎まがいの何かが入った利き猪口を鼻に近づけてみると・・・あれっ!? あきらかに、吟醸っぽい香りがほのかにしている。味も、かすかにだけど、吟味が感じられる。

つまり、最初に味見した時は、タンクから汲んできたばかりで、温度も低かったため、味も香りも全く表面に出てきていなかったわけです。それが時間の経過とともに温度も上がってきて、じわじわと表面に出てきたわけですね。

私が放置プレイをするようになったきっかけは、この時の鷹勇の経験からです。この経験と、ワイン屋さんの話が見事に結びついたわけです。 実際、鷹勇は開けたてよりも一週間後の方が、より一層、味も香りも楽しめます。この旨味を知ってしまったら、もう、どんなお酒も放置プレイせずにはいられません。

そしてお燗も。さらには燗冷ましも。当店で扱っているお酒は、全て、放置プレイの上で燗冷ましまでしていますので、安心して放置プレイにいそしんで下さい。

倉吉管内、鳥取県、出雲杜氏組合、中国地区、または全国と、出品すればことごとく入賞されるだけの腕前は持ちながら、あくまでも基本は純米吟醸、と言われる坂本杜氏ですが、現在は顧問として第一線は退かれ、昔鷹勇で一緒に蔵人として働いていた曽田杜氏に第一線が引き継がれました。まだまだ馴れていないことが多いでしょうが、坂本杜氏と同じく黄綬褒章を受賞されているほどの腕前の曽田杜氏ですから、これからの活躍に期待しています。

鷹勇・坂本杜氏特別インタビュー

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旭菊酒造(福岡県)

旭菊酒造の酒蔵訪問

西鉄博多駅から一時間弱。犬塚という駅に到着します。更に西鉄を行くと、北原白秋で有名な柳川になります。ここら一体は、三潴地方と言われ、昔から日本酒の製造が盛んで、そして杜氏の出身地でもあります。

この、筑後平野のど真ん中に位置する旭菊酒造には、かつて田中元信という、今でも語り継がれる銘酒を人生の最後に造り上げて他界した杜氏がいました。

その杜氏が急逝して2~3年は、お酒の品質も安定しませんでしたが、その後は目を見張るような品質のお酒を造り上げて我々に嬉しい悲鳴を上げさせてくれています。

しかし、これほど劇的に変化した蔵も珍しいでしょう。私の知る限り、全国でもトップクラスの品質ではないかと思っていますが、何故か、あまり知名度は高く無い。

当店のお客さん達には、有名になってくれるな、と言われます。有名になって、自分の飲む酒が無くなったらどうしてくれるんだ、というわけです。セコいですね~酒飲みは。

最近の品質は、鷹勇と同じレベルにある、とおっしゃるお客さんもいらっしゃるほど。ただし、その凄さは、開けたてでは分かりません。

特に無農薬栽培の山田錦を使った「大地」シリーズは、時間をかけて飲んでいただかないと、なかなかその真価を味わえないと思います。

開けたてでも、それなりに滑らかな味わいで、飲みやすいのですが、時間をかけていただくことによって、さらなる高みにまで到達します。

50%精白の純米吟醸は9号酵母。60%精白の特別純米は7号酵母と使い分けているのも、やるなおぬし、と言いたくなります。精米歩合や値段の差ではなく、それぞれが違う個性を持った味わいです。

また、それだけではなく、特別純米の「彩花」山田錦60%精白や、純米吟醸の「麗」なども、旭菊らしい透明感があって、一見柔らかく、しかし芯の強い味わいで楽しませてくれます。

そんなお酒を造るのは、実は蔵元。田中杜氏がご健在の頃は、いつもぼ~っとしていて、つかみどころの無い人だな~と思っていたのですが(今でもその点は変わりませんが)、田中杜氏がいなくなってからは、実質的に彼が造りを仕切っていたそうです。

「ええ、実は杜氏はいますが、全部私が決めてます」とおっしゃっていました。

普段は宇宙人などと言われる(陰口でなく、正面から言われるところが凄い)原田社長ですが、お酒造りのことになると、俄然、ピントが合ってきます。地球人90%くらいになります。(それでも100%でないところが、さらに凄い)

造りの時期にこの蔵を訪問して、原田蔵元と話をすると、実に鋭い酒造り論を展開されます。しかし、造りが終わった春~夏頃は冬眠するのだそうで、その頃はまた宇宙人80%くらいになってます。

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日置桜 山根酒造(鳥取県)

日置桜 山根酒造の純米酒紹介

ここで使うお米は、地元の玉栄、山田錦と、やはり地元で契約栽培されている強力(ごうりき)です。この強力は、先代の社長が種もみを探すことから始めました。
戦前までは鳥取県では広く栽培されていたそうですが、戦後の近代的な農法とは合わず、次第に姿を消していったそうです。
常温程度で飲むと、柔らかく感じられ、強力特有の酸もあまり感じられませんが、お燗にすると、強力らしい力強さと酸がふわっと出てきます。温度によって全く表情が違います。このお酒を飲まれる時は、さまざまな温度で飲まれてみるとより楽しめるでしょう。


日置桜 山根酒造の純米酒はこちらでご購入できます。

日置桜 山根酒造の酒蔵紹介

鳥取県東部、青谷という場所にあります。因州和紙の産地としても名が通っている所で、この日置桜の蔵の上手に、和紙の工房があるそうです。(私は行ったことがありませんが)この蔵で杜氏を勤めるのは出雲出身の松崎杜氏。

六十代半ばで小柄な体ですが、身のこなしは鋭いです。杜氏組合や広島局等の品評会でもいつも上位入賞されている腕前ですが、本人はいたって気さくな方です。そして、ここを語る時に忘れられないのが、先代の社長。上原先生が無二の飲み仲間と言われていた、なかなかの豪傑でした。

私がここへ初めて行った十数年前に、酒蔵とは別に酒造資料館を建てられたのですが、なんと、社長が気に入らない人はここに入れない、という場所。好き嫌いがはっきりしていて、舌鋒鋭い方でした。

そして、我々はこの社長のことを「出荷管理の魔術師」とよんでいました。というのは・・・

新酒をきき酒して、これはどうも今一つ・・・と思う酒も時たまあったのですが、それが瓶詰めされて送られてくると、なんともびっくりするような美酒になっていることがよくありました。

詳しく聞けば、蔵元さんが出荷管理、つまりブレンドをしているらしい、とのこと。あんな酒(山根さん、ごめん)が、

こんな酒になってしまうとは、出荷管理とは凄いものだと感心したものでした。

しかし、数年前に他界された時には、あの出荷管理の技術はどうなるんだろうと心配しました。

しかし、平成15年の冬に蔵へお邪魔した際に、現社長に話を聞くと、「出荷管理ですか? あれ、私がやってたんですよ。親父(先代社長)はやってくれって言っても、何もせんかったですからね~」とのこと。

えっ!? じゃあ、私が「出荷管理の魔術師」だと思っていたのは、先代の社長じゃなくて、現社長だったわけ!? じゃあ、これからも心配無いじゃん。と、ほっと胸をなでおろしたのでした。

ここで使うお米は、地元の玉栄、山田錦と、やはり地元で契約栽培されている強力(ごうりき)です。この強力は、先代の社長が、上原先生と一緒に種籾を探すことから始めました。

戦前までは鳥取県では広く栽培されていたそうですが、丈が高いため、戦後の近代的な農法には合わず、次第に姿を消していったそうです。この強力の特徴は、硬質米で熟成が遅いことでしょう。

本来なら2~3年熟成させてから燗にして飲むもんじゃ、というのは上原先生。確かに、私がここを訪れた平成3年頃の強力のお酒は、搾ったばかりできき酒すると、味も何も無いような、渋くて堅いお酒でした。

しかし、平成15by頃の強力からは、ちょっと見には強力には思えないような柔らかさが感じられるようになりました。また7号酵母を使われるようになったことも、酒質の大きな変化へと繋がったようです。

香りが立ちやすい9号酵母よりも、香りは大人しく穏やかだけれども、しっかりした旨味のある味になってしっとりとした味わいになる7号酵母の方が、個人的にはこのお米に合っていると思います。

そして、最近では、鳥取県中部の篤農家さんの無農薬栽培の強力や山田錦を使ったお酒を造り始めましたが、これが80%精白! が、とても80%精白とは思えない、透明感のあるきれいな味わいに驚かされます。

何も言わずに飲まされたら55~60%精白だろうと思ってしまいます。

まだ若いだけにいろいろな試みをされる蔵元さんと、それを腕で支える杜氏のコンビは、これからも続々と、おいしいお酒を提供してくれそうです。

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龍勢 藤井酒造(広島県)

龍勢 藤井酒造の酒蔵訪問

竹鶴と同じく、広島県竹原市の美観地区に蔵はあります。江戸時代に建てられた蔵がまだ残っていて、時代劇のロケに使われることもしばしばだそうです。

ここで杜氏を勤めるのは、この蔵の次男、雅夫さん。彼は、以前この蔵に赴任されていた長崎杜氏の薫陶を受け、その技術を心構えをしっかりと受け継いでいます。

その上で、彼の人柄のそままの、穏やかで芯の強い味わいのお酒を造り上げています。山田錦、備前雄町や八反錦などのお米を使いながらも、どれも雅夫さんならではの味わいにされている技術は、若いながらたいしたもんだと思わずにはいられません。

しかし、現在は多くのファンを持つ彼のお酒ですが、長崎杜氏から受け継いだ当初から、このような高水準のお酒が出来ていたわけではありません。

彼は何も言いませんが、きっと辛い時期もあったことと思います。しかし、あるきっかけで、蒸米が大きく変わり、それからがらっとお酒が変わりました。それまでは、はっきり言って、到底、長崎杜氏のレベルには及ばない品質でしたが、蒸米が変わってからは、全く違う水準に到達してしまいました。

やはり上原先生の「一に蒸米、二に蒸米、三に蒸米」なんですね。改めて、蒸米の重要性を感じさせられました。

また、この蔵では「宝寿」と「龍勢」の2つの銘柄がありますが、「龍勢」は純米酒のみ。それも杜氏と蔵元さんが納得出来るものにしか貼られないラベルだそうです。それに出荷される酒販店も限られています。

というのも、この銘柄は、明治40年に開催された第一回全国清酒品評会で全国第1位を受賞した名誉ある銘柄だからです。藤井酒造が全国第1位を受賞したことを祝って、「軟水醸造法」を考えだした三浦仙三郎翁が名付けてくれた銘柄だからです。

上原先生、長崎杜氏の薫陶を受けて育った若き杜氏のお酒は、決して開けたてをグイグイと飲まないで下さい。じっくりと、ゆっくりと味が開いてきますので、是非、一週間前後かけて少しずつ、味の変化をお楽しみ下さい。

やはり上原スタイルの酒造りを学んだ杜氏の造るお酒は、どうしても時間がかかるようです。しかし、待てば待つだけ、そのおいしさも広がります。

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竹鶴酒造(広島県)

竹鶴酒造の酒蔵紹介

広島県竹原市は、江戸時代は塩田で栄えた町だそうで、今でも美観地区の言われる、昔からの町並みが残っている一画がありますが、竹鶴酒造は、この美観地区のど真ん中にあります。

また、ニッカウィスキーの創始者、竹鶴政孝の実家としても知られています。その竹鶴政孝は、ウィスキーはナイトキャップとして楽しみましたが、晩酌はずっと日本酒だったそうです。

この蔵で杜氏を任されているのは、「酒造界の大魔神」とか「酒造界のゴジラ松井」(実際、似ています)などと言われて親しまれている石川杜氏。早稲田大学時代に神亀に出会い、就学中から神亀で酒造りを始め、そのまま神亀の蔵人になってしまった冒険野郎です。

神亀さんで4年ほど酒造りを経験した後、実家のある広島県に戻り、この竹鶴酒造に蔵人として入社しました。実は彼のお父様は広島県の大手蔵の重役さんなのですが、彼は大きい蔵よりも自分のやりたい仕事が出来るから、という理由でこの竹鶴酒造に入りました。

そして2年、蔵人として働いた後、前任の杜氏さんが引退されるのに伴って、杜氏に任命されました。と同時に、彼の驀進が始まったのでした。新しい井戸を堀り、新しい道具を導入し、造りもこれまでとは全く違うスタイルになっていきました。

石川杜氏自身も言っておられましたが、やはり最初に入った神亀の影響は大きかったようです。吟醸香なぞ、これっぽっちもない。滑るような喉越しを期待してはいけません。思いっきりゴツイです。市販酒のラベルには記載されていませんが、分析値を見ると、ぶっ飛びます。香り高い、やわな吟醸になれている人なぞ、この数値を見ただけで、一口も飲みたいとは思わないでしょう。

しかあ~しっ!! 石川杜氏をはじめとする、竹鶴酒造の面々の造る味わいは、決して数値で推し量れない奥深さがあります。開けたては確かにとっつきにくいです。杜氏自ら「純米爆弾」などと言っています。冷やのままで飲めば、口の中で酸が弾けます。

でも、そのゴツイ味わいが、時間の経過とともに、なんとも言えない旨味に変わってくるのです。瓶のままだったら、二週間~一ヶ月。口の広い酒器に入れておくなら半日くらい、そのままほったらかしにしてみて下さい。

開けたてのゴツさは微塵もなく、骨太の酸が味の骨格を造り、五味が見事に調和してきます。この味わいを知ってしまったら、もう後には引けません。

香り高い吟香(石川杜氏に言わせると、あれは香りではなく臭いだ、とのこと)だけが、滑るような喉越しだけが吟醸酒ではありません。

私が最初に出会った頃の神亀の、あの野武士のような一本背筋のピインと通ったような味わいは、まさに竹鶴でしか味わえない個性でしょう。

でも実は、竹鶴を語る場合、石川杜氏だけでは到底、語りきれません。実際、雑誌の取材などでも石川杜氏はよく出てこられるのですが、その後ろでこの大魔神を操っているのが竹鶴社長。

若い杜氏の好きなようにさせ、必要な道具もすぐに購入する、新しい井戸を掘る、この社長なくしては、竹鶴は語れないでしょう。大変な酒豪で賑やかなことが大好きな社長が、実は竹鶴の黒幕なのです。

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睡龍 久保本家(奈良県)

睡龍 久保本家の酒蔵訪問

久保本家さんは、奈良県の大宇陀という地にあります。
近鉄の榛原駅から車で20分くらいでしょうか。蔵の前の道は昔は重要な街道 だったということです。
昔からの家も多く、数百年続いているところもあるそうです。
なので、久保さんも江戸時代から続いているのですが、まだこの地では新参者なんだそうです。

ここに加藤杜氏が赴任してきたのは平成15年。
あちこちの蔵を巡り、自分が安心して飲める酒を造りたい、という切実な思いを実現するためにこの久保本家さんにたどり着きました。
ここに至るまでには、福岡、埼玉、三重、鳥取と酒蔵を巡りました。

ちょうど、加藤杜氏がここを訪ねた時は、蔵元の方も世代交代の時でした。
それまで銀行にお勤めだった順平さんが蔵に戻ってきた、ちょうどその時に、加藤杜氏を迎えられました。

ただ、加藤杜氏が赴任するにあたって蔵元さんに約束させたことがあります。
それは、好きな酒を好きなだけ飲んで良い。給料とは別に。
おそらく蔵元さんとしては軽い気持ちで受けたのでしょう。しかし、この約束は、後に蔵元さんの顔色を青くすることになったのでした。
杜氏、蔵人たちが飲むのは、ほとんどが「生酛のどぶ」これを一晩で2~3本消費するのです。それも毎晩。

その上、この蔵のみなさんと私の好みは似ているらしく、よく同じタンクのどぶとバッティングします。
こちらとしては多めにもらいたいので、ある程度の数を予約しておくのですが、ちょうど蔵人さんもそのタンクのお酒が飲みたいらしく、「これは池田屋さんの予約分だから」と引き留められて渋々諦めることもしばしばあります。

そんな杜氏と蔵人たちが造るお酒は、とにかく力強い。とてもとても新酒では味が乗ってきません。
どぶだけはにごり部分の口当たりの柔らかさがあるために、さほど堅さを感じさせませんが、特に生酛系のお酒は新酒の時には飲めません。
数年、ものによっては10年以上の熟成期間が必要なのではないでしょうか。
なので、私などは栓を開けて一ヶ月前後、室内にほったらかしにしておきます。
これを熱めの温度にお燗すると、なんとも言えない旨みが口の中いっぱいに広がります。

こんな力強いお酒を造る秘訣は、やはり生酛造りにありそうです。
加藤杜氏は、大七の故伊藤杜氏の最晩年に生酛造りのキモを伝授されたらしいのですが、それに彼ならではの創意工夫を加えた造りをされているようです。
彼が赴任した年か、その翌年だったかは忘れてしまいましたが、県の鑑定の先生が巡回で久保本家さんにこられた時に調べてみたら、通常の1割ほどしか酵母がいなかったのに驚いて電話されてきたそうです。
普通であれば、お酒にならずに腐造になってしまうような酵母数なのに、ここのお酒は元気に発酵している。この先生も不思議がっていたそうです。
つまり、寄せ集めの兵隊100人よりも、一人のゴルゴ13,ということでしょうか。

竹鶴の石川杜氏と並んで個性の強いお酒を造り出す久保本家さんからは目が離せません。

睡龍 久保本家の純米酒はこちらでご購入できます。


天穏 板倉酒造(島根県)

天穏 板倉酒造の純米酒と酒蔵紹介

天穏島根県は出雲市にある小さな酒蔵です。ここの杜氏さんは出雲杜氏の長崎さん。以前は、鷹勇で坂本杜氏と一緒に働いていたこともあり、坂本杜氏とは遠い縁戚関係になるそうです。

小柄な体からは想像もつかないタフさで、毎年、素晴らしいお酒を造り上げていらっしゃいます。以前、広島の龍勢・藤井酒造に赴任されている時に初めてお会いしたのですが、見るといつも体を動かしていらっしゃる。

もう少し休んでいればいいのにと思ってしまいます。

天穏の酒質は、まさにそんな長崎杜氏ならではの味わい。そのどれもが米の旨味はあっても、とてもシャープな切れの良さのある味わいで、多くのファンの心をつかんでいます。

しかし、そのどれもが、造りたてでは、ほとんど味が乗っていません。できれば1年以上経ってからのものを選択されることをお奨めします。

もし新酒であれば少なくとも一週間から十日は味がこなれてくるのに必要でしょう。しかし、一度変化していくと、どんどん味が変化していき、開けたての時とは全く違う表情を見せてくれます。

私はこれを「秘密の花園」とよんでいますが、この天穏の秘密の花園は、とんでもなく素晴らしい。是非、焦ることなく時間をかけて、秘密の花園を覗いてみて下さい。

また、ここの蔵で出荷管理を任されている岡田君にも一言ふれておきましょう。彼は教職の仕事が決まりかけていたのを蹴って、親の猛反対を押し切ってこの蔵に就職しました。

そんな岡田君が入ってから、天穏の酒質は安定しました。やはり造りと出荷管理は同程度の重要さを持っているのだと改めて感じました。

そんな岡田君には長崎杜氏も目をかけていらっしゃるようです。この師弟関係が長く続いてくれることを願っています。

天穏 天穏 天穏 天穏

天穏 板倉酒造の純米酒はこちらでご購入できます。


久礼 西岡酒造(高知県)

久礼 西岡酒造の酒蔵訪問

高知県の久礼港にある小さな酒蔵です。久礼港は鰹の一本釣りの基地としても有名ですが、そのせいか、或は杜氏がお酒が大好きなせいか、いくらでもすいすいとさわり無く飲める、切れの良い味わいです。

ただし、ご多分に漏れず、この久礼も開けたてよりは多少時間をかけていただいた方が、味がまろやかになってきます。きちんと熟成した時の旨さは格別です。

上品な香りもありますが、冷やでも、お燗でも、または燗冷ましでもおいしく飲めます。

上原先生に指導を受けたわけではないのですが、非常に上原先生のスタイルに近い酒質なので、最初は驚いたのですが、杜氏に聞いてみると、やはり蒸米が大事です、とおっしゃる。

しっかりと蒸し上げるのを目標にしている、とおっしゃっていたのが印象的でした。やはり酒造りの基本は蒸米なのでしょうね。

また、この蔵では江戸時代に建てられた蔵を未だに使っていて、これは高知県最古だそうです。

しかし、これほど切れが良くて上品な香りがあり、旨味もしっかりとあるのに、 さほど有名でないのが不思議です。

久礼 西岡酒造の純米酒はこちらでご購入できます。



鯉川酒造(山形県)

鯉川酒造の酒蔵訪問鯉川酒造

山形県の余目町。庄内平野のど真ん中の、亀の尾の原産地として有名な余目に、鯉川さんはあります。

ここ数年、どんどん進化していて目が離せません。亀の尾を使った純米吟醸から、季節限定の純米にごり酒。当店で特別に瓶詰めしてもらった特別純米まで、そのコストパフォーマンスは抜群です。

昨年からは杜氏さんも若い人に交代して、ますます意気盛んです。

鯉川さんで使っている亀の尾というお米は、新潟の酒蔵さんが有名になったせいなのか、新潟のお米だと思ってらっしゃる方も多いようですが、亀の尾の原産地は山形県余目です。

鯉川さんでは、この亀の尾の発見者、阿部亀治翁の子孫の方から種籾を分けていただき、それをもとに自らも亀の尾を栽培されています。

この地元の米を使って素晴らしい純米酒を造りたい。その純米酒をアメリカに輸出して、本場のジャズを聴きながらその純米酒を飲みたい、というのが鯉川の佐藤社長のお父様からの夢だそうです。(ちなみに、父佐藤は、マイルス・デイビスの大ファンだったそうです)

しかし、以前の鯉川さんの亀の尾の純米大吟醸などは、私はあまり評価していませんでした。40%も削るより、50~60%程度の精米歩合の方がいいのではないかと思ってました。しかし、これも最近は味もありながら切れもある立派な純米大吟醸になりました。

しかし、私が個人的に亀の尾としてはこれが一番と思っているのは、55%精白の純米吟醸です。米の旨味もありながら、非常に滑りの良い、それでいてちゃんと燗上がりするお酒になっています。下手に高精白にする必要も無いのではないかと思っています。

しかし・・・年々酒質は上がっていっているのですが、それにつれて熟成も遅くなってます。栓を開けて一週間では開ききらないでしょう。十日~二週間ほど、味の変化を見ていただかないと、このお酒の旨さは実感できないかもしれません。

鯉川酒造 鯉川酒造 鯉川酒造

鯉川酒造の純米酒はこちらでご購入できます。


三井の寿 井上合名会社(福岡県)

井上合名会社の酒蔵訪問

福岡の地酒:三井の寿蔵の脇を流れる小石原川は坂東次郎の異名を持つ筑後川の支流です。

春先にこの蔵を訪れる楽しみの一つに、この川岸を埋め尽くす菜の花があります。「菜の花吟醸ロード」と名付けた人もいらっしゃる位、それはそれは見事な眺めです。

が・・・未だに一人ではここに到達できません。はっきり言って、分かりにくい場所です。何度お邪魔しても、なかなか地理がよく分からない。

旭菊の原田さんに言わせると、「あそこは福岡のチベットですから」だそうです。

私が初めてここを訪れたのは平成3年の春先。ふくよかで柔らかく、しかし味の底にはなんとも言えない旨味と力強さがありました。鷹勇、日置桜と山陰を回り、すぐに福岡も回り始め、どんどん深みにハマっていった時期です。

しかし、この柔らかい味わいが数年後に、ちょっとずつ変わっていきました。なんか、今までと違う味わいだよな~・・・別にまずいわけじゃないんだけど、前の柔らかい味が無くなってきたな~、と思っていました。 今から考えると、蔵元さんが、「井戸を変えてみたんです」とおっしゃっていたのですが、その時はたいして深くも考えていませんでしたが、これが味を左右する大きな原因だったんですね。

それが分かったのは、平成13年のお酒を味見した時です。一口、あれ、何これ?  なんか昔の三井の寿の味がするんだけど。懐かしいというか、やっぱりこれが三井の寿だよ~、これだよこれ~、と思って蔵元さんに

「これ、私が初めてここに来た頃のお酒の味がするんですが、何か変わりました?」と聞いてみると、

「実は、今年の造りから、井戸を昔の井戸に変えたんです。それで味が全く違うので、福岡県の試験場に、二つの井戸の水を調べてもらったんですが、全く差が無い、という結果だったんです。でも、何億円もするような機械でも分からない水の違いを、人間の舌は感じてしまうんですね」とのお答え。

これは自分にとっても、実に大きな経験でした。言われてみればお酒の成分のほとんどは水なんですよね。だから、水が違えば味が違うのは当たり前。しかし、直線距離にして10メートルも離れていない井戸の水が、これほど違う味を造るというのは驚きです。

現在、三井の寿さんでは山廃造りの純米酒に力を入れてらっしゃいます。

以前、石川県の菊姫で農口杜氏の薫陶を受けた蔵人が杜氏として赴任され、その時に山廃造りのお酒をこの蔵で造り始めました。

それからは、地元福岡県は糸島地区の無農薬栽培の山田錦を中心に、山廃造りの純米酒のラインナップを広げてらっしゃいます。

そして現在は、蔵元さんの息子さんが杜氏の重責を担っておられますので、これからが、ますます楽しみです。



福岡県の地酒 福岡県の地酒 福岡県の地酒

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杜の蔵(福岡県)

杜の蔵の純米酒と酒蔵のご紹介

筑後平野のど真ん中にこの蔵はあります。西鉄天神駅から一時間弱。三潴駅を降りると正面に蔵の建物が見えます。この先には旭菊もあり、互いに行き来しながら研鑽されているようです。

現在、この蔵の杜氏をされている末永さんは、杜氏として四代目。蔵元さんも四代目。ず〜っと杜の蔵で杜氏をされていらっしゃいます。

私が初めてこの蔵を訪れた時は、今の杜氏のお父様が杜氏をされていて、その末永杜氏から、酒造りのことをいろいろと教えてもらいました。

蔵元の森永社長は醸造学科出身の理論家で、この蔵元と杜氏が車の両輪となってさまざまな試みをされていて、これは一つの理想的な関係ではなかろうかと思えてなりません。

蔵の規模としてはけっこう大きい方ですが、日本酒に関しては全量純米酒になりました。

使う米の量は増えて、出来る酒の量は減るので、わしの言うことは誰もやらん、というのが上原先生の口癖でしたが、その非経済的なことを、この蔵はやってしまいました。

当店で扱っている中では、神亀さんに続いて2つめの快挙です。

ただ、ここのお酒も熟成が遅い。それだけしっかりとした造りがされている証拠でもあるのですが、1年以上、ものによっては3〜4年熟成させたいようなお酒がいっぱいあります。

実際、「独楽蔵」などは数年熟成させた後で出荷されますが、それでも開けたてはまだ味が乗り切っていません。それを一週間前後かけて飲んでいただくと、純米酒ならではの爽快でふくらみのある旨味を堪能できます。

また、ここでは焼酎も造っていて、酒粕を原料にした『吟香露』は福岡県の鑑評会で何度も局長賞を受賞した逸品なのですが、いかんせん数が少ない。

原料の酒粕が、自社だけでは足りなくなってしまうほどの人気を博してしまったため、現在に至るまで、品薄状態が続いています。

が、この他にも麦焼酎も爽やかでいてコクのある『』などいろいろな焼酎もあり、それぞれに違う個性で楽しませてくれます。

杜の蔵の純米酒はこちらでご購入できます。


賀儀屋 成龍酒造(愛媛県)

賀儀屋 成龍酒造の酒蔵訪問

愛媛県は東予市、瀬戸内海に面した小さな町に、この蔵はあります。

ここは杜氏もまだ四〇代前半と若いのですが、会長自らも蔵に入って酒造りをするくらい、蔵全体が一体となって酒造りをしているような雰囲気があります。

そんなことも関係あってか、蔵の中の雰囲気も明るく、蔵人の一人一人が明るく仕事をされていたのが印象的でした。

これは高知県の久礼にも言えるのですが、海が近いせいでしょうか。切れ味が良く、爽やかな味わいなので、魚介類との相性が良いように思えます

ある程度は華やかな吟香もあるのですが、あまり強くないので、気にならず、お燗にしても崩れない腰の強さも持っています。

冷やでも、お燗でもすいすい飲めてしまう。日本酒をあまり飲んだことの無い女性のお客様が「とってもおいしいです。お陰様ですっかり純米酒のファンになりました」とおっしゃってくれました。

しかし素人向けの香りだけの酒かと思ったら、それは違います。うるさい男性のお客さんからも好評を得ていますから。

また、当店で扱っている「賀儀屋」銘柄は、全国でも限られた酒販店のみの扱いになります。

ここ数年は、なんとか年間を通じてお酒を確保出来るようになってきましたが、それでもまだ、時々は完売になってしまうこともあります。

しかし、蔵で決めた基準に達しないお酒は賀儀屋として出荷しない、また、ある程度の熟成感が出ないと出荷しない、という蔵内の規定があるため、時々は品薄になることもあります。(にごり酒や春先の生原酒は別です)

特に今年(20BY)の純米吟醸は、春に試飲させてもらった限りでは、これまでの賀儀屋とは一線を画すような酒質に仕上がっていましたから、これが発売される秋が今から楽しみです。

賀儀屋 成龍酒造の純米酒はこちらでご購入できます。


がんこ焼酎屋 大石酒造(鹿児島)

大石酒造の酒蔵訪問

当店では、あまり焼酎は扱っていません。というのは、日本の場合、南九州から奄美、沖縄などの気候には焼酎が合うが、本州以北、九州も北部の気候では焼酎は合わないと思うからです。

それに、個人的に蒸留酒が苦手なせいもあります。

そんな私がこの大石酒造さんの焼酎は不思議と飲めるんです。というか、おいしく感じられます。

特に「がんこ焼酎屋」のシリーズは、大石社長が江戸時代の文献から昔の蒸留機を再現し、その蒸留機で造られた焼酎で、これは旨い!

ちょうど、蔵にお邪魔した時に、この蒸留機を使って、がんこを造ってられたので、初留の部分を滴り落ちるしずくをなめさせてもらいましたが、こんなにおいしい焼酎は生まれて初めてでした。

原酒なのでアルコール度数は高くて、口当たりが最初は強いのですが、すぐその後から、何とも言えないサツマイモの甘い香りが口の中いっぱいに広がりました。

しかし、この蒸留機、とても効率が悪いそうです。

「最近はなれたけど、最初は一升瓶一本分できるのに30分近くかかった」そうです。

実際、とても小さい機械です。いや、機械というか木の桶を多少大きくした程度のもの。ポリバケツほどの大きさしかありません。なるほど、これなら 500ml瓶で年間2000本しか造れない、というのも納得です。

この他にもシェリー樽に熟成させた焼酎などもあるのですが、やはり地元の農家さんが契約栽培したスタンダードな芋焼酎が、大石さんならではの味わいだと思っています。

最近は、多少はゆるくなったとはいえ、それでも思うように入荷しません。品切れの際はご容赦下さい。

がんこ焼酎屋 大石酒造の焼酎はこちらでご購入できます。


矢野酒造(佐賀県)

矢野酒造の酒蔵訪問

佐賀県のおいしい地酒この竹の園、矢野酒造さんとは、平成14byからのおつきあいです。酒造業界にいる、古くからの友人の紹介でした。

「ベタ甘全盛の佐賀県に、お前さん好みの、すっきりとした切れの良い酒を造る酒蔵があるから、一度行ってみないか」と言われ、その年の九州行きのスケジュールを急遽組み直して佐賀県鹿島市まで行ってきました。

さっそく搾ったばかりの新酒をきき酒させてもらうと、確かにすっきりとした切れの良い味わいで、私好みです。しかし、思いっきり渋い。堅い。これは、熟成に時間がかかるな~。

で、矢野社長にいろいろと話しを聞いてみました。

「巡回の先生から、あんた本当に良い酒を造りたいなら、この本を読みなさい、と言われたのが上原先生の『純米酒と私』なんです。さっそく読みましてね、杜氏と相談して、今までと全く違う酒造りを始めました」とのこと。

佐賀県のおいしい地酒それが一年前のことだ、というので驚きました。たった二造りで、これだけのレベルの酒を造ってしまうとは・・・でも、熟成は遅いよね、と思いました。そして、想像通り、熟成は遅かったです。翌年の春頃になって、やっと開いてきましたが、その頃には蔵にもほとんどお酒が残ってませんでした。

で、平成15byの出来具合を確かめに、今年も蔵へ行きました。

多少は余裕も出来てきたのでしょうか。昨年のようにガチガチではなく、ふわっと柔らかく、しかし、一本筋の通った味わいになっていました。恐るべし、矢野酒造。

三造り目で、これほどの酒を造ってしまうとは・・・

その酒造りの陣頭指揮をとっておられるのは、地元の中村松男杜氏。この蔵ではまだ4年目ですが、酒造りの経験は三十年以上というベテラン。寡黙であまり喋りませんが笑顔の爽やかなナイスガイです。そして、社長自ら麹室に入るのも珍しいことです。酒造りの期間は、社長兼麹屋さんになるわけです。
ベタ甘のお酒が多い佐賀県では大変珍しいタイプです。これからの矢野酒造さんには注目してほしいです。

佐賀県の矢野酒造 佐賀県の矢野酒造 佐賀県の矢野酒造

矢野酒造の純米酒はこちらでご購入できます。(品切れの場合もあります)


羽前白梅 羽根田酒造(山形県)

羽前白梅 羽根田酒造の酒蔵訪問

山形県鶴岡市の大山地区は、昔から酒造りの盛んな土地だったそうですが、現在残っているのは、この羽前白梅さんを含めて三軒のみ。

その中でも最も規模が小さいのが、この白梅さんです。

表玄関は普通の住宅のように見えますが、「志ら梅」と書かれた古びた看板が申し訳程度にかかっていますが、これがなかったら、まさかここが酒蔵だとは思えません。

しかし、中に入ると歴史のある旧家なんだと納得。分厚い漆喰の白壁におおわれた土蔵が幾つも並んでいますが、現在は倉庫として使われているそうです。

また、甑(こしき)と言われる大きな釜(お米を蒸す)があり、酒造りには理想的なスペースが確保されていて、造り手達は、仕事がしやすいだろうと想像できます。

この白梅さんの特徴は、とにかく熟成が遅いこと。1年くらいでは全く味が乗ってきません。もし冷蔵庫で保管するなら3〜4年は必要かと思われます。

ですので、とりあえずすぐに栓を開けて十日以上、放置する必要があります。

しかし、味が乗った白梅さんのお酒は、それはもう絶品です。派手ではないが上品な香りがほのかに漂い、口の中では柔らかくふくらむ味わい。それでいて決してもたつかず、するりとのどを落ちていきます。

このお酒を造っているのは、地元の安西杜氏。現在六十代と、杜氏としてはまだ若い方かもしれませんが、その腕前は上原先生も認めていらっしゃいました。

「安西さん、あんたは名人じゃな。このタイミングで酒を搾るのが分かる杜氏は、そうはおらんぞ」とおっしゃっていたのを、私も聞いたことがあります。

こんな凄い酒が何故、誰にも注目されないのか不思議でしょうがないのですが、蔵元さんの控え目な性格なんでしょうか。

蔵元さんは一見こわもてなのですが、実はとっても控え目でおとなしい方なので、その性格そのままに、お酒もあまり知られていないのかもしれません。

ま、あまり知られてくれるな、というのが白梅ファンの偽らざる気持ちなんでしょうが。

羽前白梅 羽根田酒造の純米酒はこちらでご購入できます。


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