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私は如何にして純米酒にハマったか(店主:池上徹)

当店は代々酒屋を生業としていまして、私で五代目となります。創業は明治初年頃らしいのですが、私の父さえ、はっきりとした年代は知りませんでしたので、「創業○○年」と書けないんですね、これが。

閑話休題。学校を卒業して店を手伝い始めたのですが、全く酒屋という仕事には興味が持てずに、毎日惰性で仕事をしていました。

そんな私が日本酒にハマってしまったのは、ちょっとしたきっかけでした。

それまではワインが好きで、ワインばかり飲んでいたのですが、ある知人の女性に「お酒を造っているところを見たい」と言われ、先々代からのつきあいのある、埼玉県内の酒蔵に連れていったのが、そもそもの始まりでした。そこで生まれて初めて「吟醸酒」なるものを飲ませていただき、あまりのおいしさに感激!

日本酒だって、変な臭いがしたり、甘ったるいのばっかじゃないんだ!これは凄い! 

よし、今度これを扱おう!!(知らない、ということは、ある意味とても幸福なことです)

ということで、さっそく、その吟醸酒を、これまた古くから付き合いのある割烹料理屋さんに持ち込み、そこの御主人と板前さんに、「こんなおいしいお酒があるんです! これ、扱いませんか?」(本当に、無知は力なり、ですね)

そこで、私の持参した吟醸酒を味見してくれたお二人は、店の冷蔵庫から、2種類のお酒を取り出してきて、お猪口に注いで、「これ飲んでみな。」と一言。

で、その2種類のお酒(一つは本醸造、一つは純米酒、とラベルに書いてありました)を飲んでみると、私が持参した吟醸酒が、一番、見劣りしたんです。

正直、無茶苦茶ブルーになりました。本醸造や、ただの純米酒の方が、この吟醸酒よりおいしいじゃん。どうなってるんだ、これは?

まぁ、それからは取引のある問屋から、片っ端からお酒を仕入れてみました。そして、休日のたびに都内のデパートを巡って、知らない銘柄のお酒を買い集めて、片っ端から飲んでみました。

各地の試飲会にも出かけて、北から南まで、様々なお酒を飲みましたし、そこで知り合った酒蔵さんを訪問するため、あちこち旅をするようになりました。

そんなことを1年もやっていると、段々と、自分の嗜好も分かり、日本酒というものも朧げながら、全体的なイメージも出来てきました。そうすると、くだんの割烹料理屋さんでもお酒を扱ってくれるようになり、その頃は、それなりに幸せでした。

しかし・・・不幸はじわじわと、しかし確実にやってくるのです。足音も立てずに、静かに、しかし、じわじわと・・・

あれはおそらく平成2年頃だったと思いますが、私の知人が神亀さんを知っていて、その頃、いろいろな吟醸酒を探し歩いていた私に、埼玉県の蓮田市に、変な造り酒屋があるけど、行ってみないか? と誘ってくれたのです。

え~蓮田~? うちからすぐだけど、そんなとこに酒蔵なんかあるのかよ? 程度にしか思いませんでしたが、その方の顔を立てるつもりで、連れていってもらったのでした。

が、車で到着した場所は、薮、というか雑木林というか・・・それまでにも幾つかの酒蔵は訪ねていましたので、白壁の蔵が並んでいるような場所を想像していた私は、非常に不安な気持ちになったものです。

最近でこそ、周囲に住宅や公園も出来てきて明るくなりましたが、初めて訪れた頃は、本当に薮の中にあったのです。

その雑木林の中を歩いていくと、これまた悪いけど、きれいな、とはお世辞にも言えない建物があって、その中にいたんですね。この蔵の主が。

まずは一通りの挨拶をすると、壁にたてかけてある箱の中の、ほこりだらけの一升瓶(純米大吟醸というラベルが貼ってあった)を数本選んで、ポンポンと栓を開けて味見させてくれました。が・・・

まず、色が凄い。山吹色というのでしょうか。まっ黄色です。その色にも驚きましたが、また味がびっくり!

なんだこれ!? 純米大吟醸じゃないのかよ、これ?

とってもゴッつい酸があって、なんか香りも老ねたような独特の香り(ってぇか臭い)があって、正直、一口でもう勘弁してくれ、と思いました。

が、くだんの専務は、ストーブの上で湯気を上げている薬缶の中に、徳利に注いだ、その純米大吟醸を入れて、時計を見つめだす。

「うん、この温度なら、この時間だな」と言いながら、お燗のついた純米大吟醸をお猪口に注いでくれました。

内心、え~? またこれを飲むの~? それもお燗で~?
これって純米大吟醸だろ、なんでお燗にすんだよ、わけ分かんね~な~、このオヤヂは・・・
と思っていると、更に追い打ちをかけるように、こう言うのです。

「うちの大吟醸は、お燗にするとゴルゴンゾラ・チーズに良く合います。」

は? ゴルゴンゾラ・チーズ?

純米大吟醸をお燗にするだけでも、はぁ? なのに、ゴルゴンゾラ・チーズぅ?全く、何言ってんだよ、このオヤヂは・・・と思いながら、そのお燗にされた純米大吟醸を、仕方なく一口飲んでみたら・・・

そこには、今まで全く知らなかった至福の世界が広がっていました。(今、冷静に考えると、あそこで引き返していれば、もっと楽ちんな酒屋ライフを満喫できたかもしれないって思います)あの老ねたような臭いも消え、いや、かぐわしい香りに変わり、ゴッつい酸の強かった味は、見事にまろやかになり、全体が調和しているではありませんか。

これなら、本当にゴルゴンゾラ・チーズに良く合うだろうな~、いや、こりゃうめ~!

下手な白ワインなんぞ、足下にも及ばない馥郁とした香味。

しかしそれは、香り高い吟醸酒とは全く対極の世界でした。でも、それはそれはものすごい衝撃でした。

もしかしたら、このオヤヂ、いやこの方は、とんでもなく凄い方なんではないだろうか? と後光さえ射しているように思えてきたのです。(うっ、眩しいぃ~)

こうして、神亀さんに教えてもらった純米のお燗にハマってしまい、専務に嫌がられながらも、度々蔵にお邪魔していろいろと話を聞かせてもらいました。

そして、さらには『ここに美酒あり/後編』を出版された箕浦淳一氏にこの蔵で出会い、彼に誘われるままに鳥取で上原先生に出会い、さらには福岡も経巡り、すっかり、お燗がおいしい純米酒にはまったしまったわけです。

神亀さん~上原先生へと繋がる酒蔵のお酒を味わってしまったら、もう後戻りは出来ませんでした。

香りのあるお酒も嫌いではありませんが、香りだけが高いようなお酒は飲めなくなってしまいました。

それに我が師匠、上原先生に教えていただいた、「究極の品質判定法」(これを知りたい方は、是非、『間違いだらけの日本酒選び』をお読みください)で、今まで扱ってきたお酒を判定してみたら・・・これがまぁ、見事なくらいに、ほとんどのお酒がボーダーラインを超えられなかったんです。

いったい今まで、何をやっていたんだ俺は・・・

そして、この判定法に合格できる品質のお酒を選んでいたら、いつの間にか、当店の棚には誰も知らない銘柄のお酒ばかりが並ぶようになりました。

当然、お客さんは誰も手を出そうとはしません。店に入ってくると、大抵の方は遠巻きに冷蔵庫を眺めて、そそくさとお帰りになられます。

当たり前ですよね。反対の立場だったら、私だって絶対に手を出していないと思いますもん。

店にいらっしゃるお客さんは、大抵、新潟や北陸の有名銘柄などを希望されるようですが、当店では扱っていませんし、扱う気もありませんでした。

ましてや、吟醸酒をお燗にして飲め、などという店主のいる店は信用出来ないと思われたのでしょうか。

今となっては分かりませんが、自分で全国を回って探してきたお酒を手にとってくれるお客さんは、ほとんどありませんでした。

平成3~4年頃、当店のある関東圏で、「神亀」「鷹勇」「扶桑鶴」「黒田城・大手門」「旭菊」「庭の鶯」「三井の寿」「羽前白梅」といった銘柄を知っていた方はどれくらいいらしたんでしょう。販売している自分でさえ、つい半年前まではぜ~んぜん知らなかった銘柄ばかりです。

そりゃ、誰も知らないですよね。(私だって、地元の神亀さえ知らなかったんですから)

それでもめげずに、誰も知らない、これら山陰や福岡のお酒を扱っていました。

そのうち、絶対に分かってくれる人が出てくる。

今は誰も知らないかもしれないけど、無茶苦茶おいしいし、値段だって品質から考えれば信じられないくらい安いし。

一度飲んでもらえれば、絶対に分かってもらえる。そう思っていました。

だから、今はこんな状態でも、あと半年もすれば・・・うっしっし、売れて売れて売れまくっちゃうぞ。

店の前には開店前から列が出来ちゃったりして。で、整理券なんか配っちゃったりして・・・な~んて想像して。単なるバカですね。

でも、バカはバカなりに幸せでした。自分の大好きなお酒に囲まれていましたし、想像するのは自由ですし。(というか、妄想ですね、あれは)

でも実際、私の口車に乗って、一度飲んでくれたお客さんは、ほとんどの方がリピーターになってくれたんじゃないでしょうか。(口車に乗って良かったでしょ?)

純米酒こそ、おいしいお酒こそ、お燗で飲みましょう! という私の言葉を信じてくれたお客さんが出始めた時の嬉しかったこと。(家内と二人で、今日は××が一本売れたね! なんて会話をしてました)

でも、もうその頃には妄想はしていませんでした。現実の厳しさってやつが身にしみてましたし。バカも、バカなりに学習するもんです。

そこで私は、さらなる奥の手を繰り出しました。それが今では『放置プレイ』として人口に膾炙されている、あの栓を開けてほったらかしにする技です。(技かな?)

この『放置プレイ』のヒントは、ワインを専門に扱っていらっしゃる酒屋さんの話でした。

その方はワインを一ヶ月前後かけて飲むのだそうです。そうすると、ヴィンテージなぞに関係無く、どんどん味が変化していく。それを自分の舌で覚えておくんだ、という話を聞いて、あっ! その手があったか~ それ使えるわ、と思ったのがきっかけです。

そこで「このお酒はね、せめて一週間。一週間は待って下さい。それからお燗にして飲んでいただかなければ、本当のおいしさは味わえませんぜ、旦那」な~んて言い始めたんですが、これは、けっこう素直に受け入れてもらえました。

そのうち、お客さんの方から、
「これは何日くらいで飲める?」な~んて聞いてくれるようになってきました。
また、時々は「すぐに飲めるの頂戴。も~今日じゃなきゃ駄目! すぐに飲めるの! も~待てない」なんてリクエストもあります。
でも、長かったな~、ここまで来るのは。結局十年以上かかっちゃったもんな~、としみじみと思い返すには、まだ早いですね。

私が思うに、日本人ってのは、トレンドに流されやすい民族なんでしょうかね。
何かが流行ると、皆さん、ど~っとそれに雪崩れ込む。

で、当然、すぐにそれに飽きてしまう。

ワインブーム、吟醸酒ブーム、焼酎ブーム等々。お酒だけに関しても、数年ごとにいろいろなブームがあったようですし、その裏には誰かの仕掛けがあったのかもしれません。
まぁ、その波に乗って、その時々でうまい商売を出来るような器用な腕があれば良いのですが、生まれつき不器用なことでは、親からも保証付きなもので、自分が納得できたものしか扱っていません。

そんな不器用な酒屋が、自分の足で探した純米酒を中心にした品揃えをしています。もしよろしければ、いろいろなページを用意してありますので、興味の赴くままにご覧いただければ幸いです。

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